「長秀は一体何を買ったんでしょうね。」
「んなこと、オレが知るかよ。」
ウィンダムはとあるマンションの駐車場に停まった。
千秋のマンションだ。
「千秋の部屋は……と、ここだ。」
高耶はインターホンを押した。
「遅かったわね〜。駄犬に
連れ去られた
かと思って心配してたのよぉ。」
「ねーさん、いくらこいつでもそこまでは……。」
高耶は、今までの直江の所業を思い出した。
「そこまでやりそうだ。気ィつけなきゃな…。」
「高耶さん…あなたは私をそんな風に思ってたのですか?」
「そりゃ思うわよねぇ…あんなことやこんなことされたんだもの。」
「な、ねーさん。何でそんなこと知って……。」
「何かしら。テキトーにいってみたんだけどやっぱりねぇ。で、あんなことってどんなことされたのよ〜。お姉さんに言ってごらん。」
「晴家、一回殴っていいか?」
「暴力はんた〜い。景虎、こんな最低男さっさと振って、お姉さんと付き合いましょ♪」
「ねーさん……。」
「景虎はみんなのものなんだから、直江だけが独り占めしてるのって不公平でしょ!」
高耶を巡っての、直江 vs 晴家 戦争が勃発した。思えばこの二人、400年前の初換生後も、景虎を巡って対立していたのだ。怨霊征伐のパートナーとしては申し分ない相手だが、高耶を巡る争いはこうして日常茶飯事のように行われているのである。
このまま『第〇十次景虎大戦』に突入しそうになったとき、それを静止したのは高耶ではなく、千秋だった。
「てめえらな〜、景虎なんざ奪い合って、俺様の城を壊すんじゃねーよ。つーか、早くウチ入れ。」
いつもだったら、このまま出て行けといってもおかしくない千秋が、寛大な態度を示したのだから、高耶たち三人は目を丸くして驚いていた。
「長秀の奴、どこか調子が悪いんだろうか?」
「なんか、いつもとちがうのよねぇ…。私もさっきから調子狂っちゃって。」
「千秋…。イイヒトが定着しすぎて、本物のイイヒトになっちまったんじゃ…(同情の目)」
そんな三人の様子は気にもとめず、千秋は続けた。
「さ、みんな集まったことだしさっそく始めっか♪」
千秋の手には、何かのケースが握られている。
「なんだ、それ?」
高耶は尋ねた。
はぁ、とため息が漏れた。千秋だ。
「やっぱりな…。景虎も知らなかったか…。普通の10代20代の若者はゲームくらいやっとかなきゃ、時代についていけねぇぞ。」
「アーケードゲームはやったことあるけど…。家でやったことはねえな。」
もっとも、そんなことをする余裕のない人生を高耶は送ってきたのだから、仕方がないのだが…。
「これはな、プレステ2っていう家庭用ゲーム機のソフトなんだが…今日発売された新作でな。その名も……」
やけに、千秋が焦らすので、つい生唾を飲み込んで真剣になっている3人である。
「「「その名も…?」」」
「『戦国無双』だ。」
全員の目が光り輝いた。
「それは、戦国時代が舞台なのか?」
直江も気になっているらしい。
「おもしろそうね。早くやりましょ♪」
綾子も続く。
「初心者から上級者まで楽しめる、無双シリーズの最新作で、今までは『三國志』が舞台だったんだ。んで、今回はやっと俺たちの『戦国」時代がきたってワケ。」
「誰が出てくるか…楽しみだろ?」
PS2の電源を入れる。2.3分してキャラ選択画面になった。
「全然いねーな。」
「最初はな。これから増えてくんだろ。」
「真田に、信長に、義父上に、…伊達政宗、明智に、それから……っと。上杉は、義父上だけか。」
「まぁ、そんなもんじゃない?早くやりましょ♪」
「つまらないですね。信長なんて死んでも使いたくないですね。」
「けどな、キャラいっぱい使わないと、人数増えねーから誰かがいずれ使う羽目になる。」
毒づく直江に、千秋が続ける。
「へぇ。大変なんだな…。」
「どーでもいいから、早くやりましょ〜」
「んじゃ、オレは義父上を。」
「俺は……。」
怨霊征伐で溜まったストレスを、4人はゲームで発散していた。
自分達がかつて生きた時代…それを変えていけることも、たとえゲームだとわかっているのに真剣になってしまう要因である。
交代で何度かプレイして、使用できるキャラが増えてきた。
が…
「何で俺たちが出てこなくて、織田の小姓が出張ってんだよ。」
「あ、こいつ、マンガ版の番外編に出てた、(ちなみに原作の最後の方にちょろっと出た)雑賀孫市じゃ…。」
「あ、高坂が、顔なしだけど出てる。雑魚武将だぜ、あの高坂が。」
「お、景虎〜、見てみろよ。色部のとっつぁんも、顔なし武将だけど、ちゃっかりゲームにでてるみたいだぜ。」
「夜叉衆の中でも、最近仲間外れにされてていじけてたじゃない?こんなところで、抜け駆けってどうなの!?」
「色部さんに限って、そんなことは…。」
「してないとは言い切れないぜ。とっつぁんだって…」
「それにしても、許せませんね。私達はおろか景虎様でさえ出てこないなんて…。これは、制作側に抗議に行くしかないでしょう。」
「それよりも、俺様がそいつらに暗示をかけて作らせてみるか。」
千秋のメガネが、きらりと光る。
「『闇戦国無双』をな。」
「「「………。」」」
しばしの沈黙の後───
「いい案ですね。」
「それ、いいな。」
「長秀、あんた最高よ。」
「んじゃ、早速……。」
半年後、出来上がったソフトが千秋の元に届いた。
戦国無双では、見事に無視されていたキャラがメインに話が進んでいくようになっている。
上杉景虎はもちろん、直江信綱、柿崎晴家、安田長秀、色部勝長、加藤清正、風魔小太郎、北条氏康、北条氏照、高坂弾正、武田信玄、などなど。もともといたキャラももちろんいるが。
『闇戦国無双』のタイトル画面を満足そうに眺める、四人の姿があった。
人は彼らを───上杉夜叉衆と呼ぶ。
あとがき
このゲームには裏設定があって、それもそのうち書いてみたいです。
koeiを知っている人だったら、そんなことは書かなくても想像できちゃうと思いますが。
実は、誰が出ているのかよく知らないので、結構いい加減に書いてるかもしれませんが、
そのうちゲームをプレイしたら、書き直すかも知れません。
すみません、本当に、『闇戦国無双』が書きたかっただけなのです。
2004.06.07 鷹夜那岐
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