Triangle Love Game
──STAGE 5──
高耶は無言で直江を見ている。その表情に浮かぶものは、怒りなのか同情なのか。
それさえもわからないほど暗い部屋に二人は無言で見つめあっていた。
気づけば高耶は部屋を飛び出し、直江の部屋にいた。
高耶は思う。
目の前の男は、橘義明の苦しみを背負わされた哀れな男なのだ、と。
虐待や暴力を受けてきた人間は、自己防衛として、トラウマの克服として、その行為をわざと他人に繰り返させたり、他人に強いたり、自分の子どもを同じように扱ったりすることがあるという。
自分の受けたあの屈辱的な行為は、あの酷い仕打ちは、彼が以前受けたものだというのか!?
人格分裂を引き起こすほどの行為は、何度も何度も繰り返されてきたに違いない。
そう思うと、『直江』に対する思い──先程までの怒りや憎しみの感情は、
男に対する憐憫の情へと形を変えはじめる。
『直江』は加害者ではなく、むしろ被害者なのだ。
歪んだ愛情で育てられ、もう一人の自分には苦痛を押し付けられ、
人に愛されることもなく、
人を愛することもできず、
人に必要にもされずに、むしろ厭われてきた。
人を信じることもできず、
闇の中を生きてきた『直江』。
暗闇の中でひとり、何を思って存在してきたのか───
痩せ細った儚げな蒼い月が窓の外に見える。
直江のようだ、と高耶は思った。
どれだけ辛かっただろう。
本来ならば存在することもなかった自分を、支えてくれる者もなく。
苦しみだけを抱えて、希望もなく。
あるのは──絶望と失望。
人を信じられず、独りで生きてきた青年の心は、今にも消えそうなこの月のように。
満身創痍の心を必死に隠して存在してきたのではないか。
月が『直江』と重なり、切なさが胸に込み上げてくる。
────この感情はなんだ?
名前の付けられないこの思いは、なんなのだろう。
知らないはずのこの感情。
憎悪の対象だった男に感じているこの思いは。
高耶にはわからない。
しかし、その灯は消えるばかりか大きくなる一方だ。
本当は知っているのだ。
本当は知っている。ただ認めたくないだけだ。この感情をなんと呼ぶのかを。
あとがき
またしても暗くてすみません。この話ではシリアスしか書けませんね…。テーマを暗くしすぎました。
反省。
連載モノって難しいですね。回が進むごとに、前回との矛盾が生じてきたり。
校正がめんどくさいです。
けどなんとか完結させたいです。ガンバリマス。
2004.6.30 鷹夜那岐
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