HAPPY DAY? ──中編──




7.23────────ついに、その日はやってくる。

7月22日 23:55。


直江は、都内のとあるマンションの、ある部屋のドアの前にいた。
夏だからといって、上着は脱いでいない。いつもと同じようでいて、実はおろしたてのダークスーツに身を包んでいる。ネクタイもきっちりと締めていた。足元は高級そうな革靴で決めてある。もちろん、すべてブランド物である。そして────。
直江の右手には、お約束の薔薇の花束が。真紅の薔薇が20本。
左手には、小さな箱が握られている。

23:59。
素早く、左手の箱をスーツのうちポケットにしまうと、浅く深呼吸した後そのベルを鳴らした。

───足音が直江のほうに近づいてくる。
5秒前。
4。
3。
2。
1。
────ガチャ。

「20回目のお誕生日、おめでとうございます。高耶さん。」

両手に抱えた薔薇の花束を高耶に手渡す。高耶は半ば飽きれたように目の前の男を見ている。
不機嫌そうに見える高耶だが、本当は照れを隠すためにそんな顔をしているのだと、直江は知っていた。
「直江、おまえなぁ…。」
「どうしても、23日になった瞬間に一番におめでとうを言いたかったんです。」

「…そっか。ありがとな。」

「よろこんでいただけたみたいですね。私もそんなあなたを見られてうれしいですよ。」

直江という男はなぜこんなにも恥ずかしい男なのだろうか、と高耶は本気で思うことがある。高耶は、女ではないのだからやめて欲しいとも思うのだが、それを言えずにいるのは高耶もまんざらではないということだろうか。
直江は、自分の贈った花束を大事そうに胸に抱えている高耶を抱き寄せ、その耳元に甘く囁いた。

「高耶さん、会いたかった。あなたに会えない日々が、どんなにつらかったことか。あなたに触れられなくてどんなにさみしかったことか。」

心地よく耳に響くバリトンが、高耶を甘く誘う。恍惚とした表情を見せる高耶は、この世のどんな生き物よりも美しく、艶かしい。

「オレも────ぁ、なお、え。」

直江は噛み付くように高耶の唇に、それを重ねる。自分達に言葉は必要ないとでも言うように、本能のまま獲物を貪る獣のように激しく口付ける。深く長い口づけに二人は甘く酔いしれていた。

どれだけの時間をそうして過ごしたのだろうか。吐息だけが部屋に響いている。

「高耶さん、これを────」

直江は、スーツの内ポケットから、例の箱を取り出した。そして高耶に手渡した。
「私からのプレゼントです。受け取っていただけますか?」
「ああ、これ開けてもいいか?」
「ええ、どうぞ。」

小さな箱の包装紙を丁寧に剥ぎ取り、フタを開けた高耶の目に映ったのは、シンプルなシルバーバングルだった。裏側には「N to T Dear My Only Dictator」と書かれている。

「直江、これ高かったんだろ?おまえがいれば、何もいらないのに。」
「気に入らない?」
「バカ。んなこと思ってるわけないだろ。それよりも────」
「なんですか?」
「こんなのもらっちまったら、オレ、もうおまえのこと手放せなくなる。縛り付けて、傷つけて、おまえがボロボロになるまで────。いや、そんなになってもオレはおまえを……。」

「いいんです。私はあなたに永劫に支配されたい。今までもこれからもずっとそれは変わらない。景虎様……もうあなたしか見えない。高耶さん、あなたを愛しています。」

「直江、」
いつも以上に真剣な高耶の視線に、直江も真摯な眼差しで答える。

「誓え。おまえの愛を────オレの全身に、心に、魂に────」
「御意。」

そう言って、直江は高耶の額に、髪に、瞼に、耳に、唇に、首筋に、項に唇を落としていく。
高耶はただ、それを黙って受け入れていた。躰の隅々に、直江の誓いの証が刻まれてゆく。
次第に二人の躯は絡み合い、互いを貪り合っていった。

心も魂も溶け合うまで、二人は飽くことなく交じり合っていた。


魂の死を迎えるとき、二人一緒に死ねたらいい。
永遠のときを共に生き、永遠の果ての永劫を共に───。


二人の手は、固く繋がっている。






あとがき
やっと直高です。なんというか、打ち込んでるときはSSの神様が降ってきてトランス状態なんですが、
素に戻って読み直すと、とても恥ずかしいです。そのうち慣れるのかなぁ…。
でもまだまだ、ラヴ度が足りてませんね。精進します。

2004.7.23  鷹夜那岐



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