7.23 10:00──── 窓から明るい日差しが差し込む。どこからか蝉の鳴く音が聞こえてきた。 開け放たれた窓から、時折入り込む風は生暖かく、涼しいとはいえない夏らしい朝だ。 都会とはいえ蝉の声が聞けるほどに自然は残っているようである。 高耶の住むこのマンションは比較的森林公園が近い。暇があれば用がなくとも公園を散歩しに行くほど、高耶はその公園を気に入っている。 大学に通うために上京した高耶は、寮に入ることにしていたのだが…。 「東京での仕事が増えたので、こっちにマンション買ったんです。今から見に行きませんか?」 午後9時過ぎ。 高耶が直江に連れられて辿り着いたのは、20階建ての高級マンションの、最上階の部屋だった。 部屋に入るなり、高耶は誘われるように窓辺に立ち、外の様子を見ていた。 夏といえど、もう外は暗くなっている。 高耶は辺りを見渡した。予想していた暗闇はなく、代わりに色とりどりのネオンが街を彩っている。 近くには、ライトアップされた公園があるようだ。ネオンばかりの騒々しい感じでなく、適度な癒しの空気が心地いい。 最上階の窓からの景色は最高だった。 しかも、高耶の大学も近く、公園も近くにあるようだ。 よくみれば、あれは自分の通う大学ではないだろうか。 (偶然じゃないよな。やっぱオレの上京に合わせて、ここ探し当てたみたいだ。しかも、こんな高そうなとこ買ったくせに、涼しい顔してやがる。この金持ちの放蕩息子は…。) バカと煙は高いところが好きだというが、この男も例外ではないらしい、と高耶は嫌味を言ってみたくもあったのだが、直江の真面目な顔を見て、それは思い直すことにした。 4LDKながら、一部屋一部屋の広さが半端でなく、1軒家にも勝りそうな部屋だ。 「一人で住むの、もったいないだろ。」 と、素直な感想を高耶は口にした。すると、 「じゃあ、あなたも住んでくれますか?私は実家とこちらを行き来するから、いつもいられるわけじゃないんですが…。」 「オレが、こんなとこに住めって?お、おまえと一緒に───」 「そうですね。世間ではこれを『同棲』っていうんでしたね。」 「ちげーよ、バカ。男同士なんだから、ただの『同居』だろ。」 「男同士でも恋人だったら『同棲』でしょう。」 「おまえなぁ……オレはおまえの恋人になった覚えなんか────。」 「まだ、性別にこだわってるんですか?さんざんあんなことしてきたのに?あなたはまだ、恋人同士じゃないと言うの?」 「そ、それは……。」 反論したくてもできない高耶は必死に言い返そうとするが…真っ赤な顔で睨み付ける表情は、直江を喜ばせること以外に効果はない。 満足そうに高耶を見つめる直江は、本当に幸せそうだ。穏やかな顔で笑うのだ。 出会った頃はお互いに反目しあっていた。いつからか、直江が景虎を意識しはじめて、それが愛だと気づくまでかなりの年月が必要だった。 換生し続け、使命を全うしてきた彼らは、四百年経った今、ようやく、本当の意味で心を通い合わせた。 出会った当初は、卑屈で自嘲するような笑みや嘲笑しか見せなかった景虎。今、『仰木高耶』として生きている彼はいろんな顔を見せる。 夜叉衆の、上杉の総大将としての顔。 仰木高耶としての顔 直江といる時にだけ見せる、笑った顔。怒った顔。寂しそうな顔。羞恥に耐える顔。苦痛に耐える顔。 快楽に溺れる顔。艶っぽい泣き顔──── 忘れることもない鋭い眼差し───視線で人を殺せるならば、殺されていたであろう力強い眼力。 思えば、あれが全てのはじまりだったのかもしれないと、直江は思うのだ。 無意識に目で追うようになった。射抜くような眼差しで、刃のような言葉で自分を支配する存在。 その相手を追ってしまうのは何故なのか────直江にもわからなかったに違いない。 どんな感情が自分にあるのか。 恋という願望? 愛という欲望? 欲して、手に入れて、支配して、支配されて、侵して、犯して、壊して、独占したい。 自分だけのモノにしたい、そんな激情。 自尊心と欲望に苛まれてきた。狂って、くるって、クルッテ─── 悩んで悩んで悩みつづけてきた。 愛と憎しみが同じくらい膨れていった。 傷ついた自分以上に、相手を苦しめた。 それでもあきらめなかった。 葛藤の果て、得られたのは極上の────。 直江が目覚めたのは、暑さのせいではない。キッチンからの食欲をそそる匂いと、軽快な包丁の音。高耶は料理が上手い。 (今日のメニューは、さっぱりした味噌汁と焼き魚、そしてご飯か。) 高耶はどんなに疲れていても、レトルトや冷食、コンビニに頼ることなく手料理を振舞う。体中だるくて、腰だって痛いはずだ。 しかし、高耶は妥協しない。 そんな高耶の姿を初めて見たとき直江は気が付いた。高耶の耳が赤くなっていることに。彼が恥ずかしそうな仕種を見せていることに───。 彼は、自分と向かえる朝に、とてつもなく照れているのだ。そんな顔を見せたくない高耶は、毎回こうして料理を作っている。 照れ屋な恋人に思わず抱きついてキスをしてしまいたい衝動が襲う。照れながら怒る高耶の顔は容易に想像がつく。 敢えてそれを実行してしまうのは、そんな高耶が愛しいから。 どんな高耶の姿も直江にはいとおしく思えるのだ。たとえ、自分の体が傷つこうが直江にはどうでもよいことだった。 そっと背後から近づき、両腕で高耶を抱きしめる。耳元に顔を近づけてこう囁くのだ。 「おはようございます、高耶さん───愛していますよ。」 と。 |
あとがき し、しまった。せっかく意味あって、敢えて「20歳の誕生日」ってことにしたのに…生かせてない。 自分的お題は、『脱保護者 直江』 『甘々』 『酒』 『香水』 『素直に同棲を認めない高耶さん』 『アニバーサリー男』 『二人を、いやむしろ高耶さんをからかう、千秋&ねーさん』 だったはずなのに〜 クリアできてない〜。いつか続きをUPできたらなぁ。 原作の設定を生かしつつ、創作も混ぜつつがんばってみたんですが、どうだったでしょうか? 私の書く直江は、とってもかっこ悪くなってしまいます。だれか、かっこいい直江の書き方教えてください。 ともあれ、高耶さん、誕生日おめでとうございます。 2004.7.23 鷹夜那岐 |