12月24日────クリスマスイブ。
子どもたちにやってくるのはサンタクロース。
恋人達に舞い降りるのは────。
SILENT NIGHT
〜for LOVERS〜
「高耶さん、もう一度言ってください。」 「今日、おまえとは会えない。」 携帯電話から聞こえてくる声は、紛れもなく愛しい恋人のものだった。 その声で、信じがたい言葉を聞いて唖然としている直江がいた。
今日はクリスマスイブ。
キリストの生誕を祝う聖夜だが、恋人達にとっても重要な意味を持つ聖夜である。
無論、素晴らしい聖夜を迎えようと必死に仕事を片付け、綿密な計画を立ててきた直江はショックを隠し切れないでいた。
夜景の見えるスカイラウンジで飲む、最高級のワイン。
ほろ酔い気分で食事を終えた後は、最上階のスイートルームへ。
後は二人の甘い時間────
になるはずだったのに。
「直江、聞いてんのか?」
「はい。もちろんですよ高耶さん。」
平静を装ってはいるが、声のトーンがその心情を物語っている。
「今日バイトに入るヤツが風邪ひいて来れないんだ。他には入れるのは俺だけだったってワケ。
てことで、夜の11時まで帰れねーんだ。悪いな。」
「そうですか。それだったら仕方がないですね。ホテルのほうはキャンセルしておきます。」
「今度埋め合わせはするからさ────んじゃな。」
「バイト頑張ってくださいね。」
「おう。」
ツー、ツー、ツー ────。
(またか。)
直江は去年のことを思い出し苦笑した。
(たしか、あれもクリスマスイブだったな。)
去年は直江が当日に風邪をひいて寝込み、結局ホテルはキャンセルした。
代わりに直江の部屋に高耶が見舞いにきて、看病していた。
一晩中一緒にいたためか、風邪が伝染って二人で寝込んでしまったのだった。
治療と称して、直江が高耶にいろいろな行為に及んだのは言うまでもない。
最高級の夜景とスイートルームにいるよりも、
甘くて至高の時間を過ごしたイブは、文字通りの聖夜だった。
今年も二人で過ごせると思った。
そのために時間を費やしてきた。
それなのに会えないなんて。
闇には、月と星と窓辺とツリーの光が映え、いつしか夜が世界を支配している。
直江はウィンダムのステアに両腕を乗せ、高耶の帰りを待っていた。
バイトで疲れていても、きっと会ってくれるはず────そう言い聞かせて。
普段はつれない恋人は、雰囲気に弱いことを知っている。
嫌がるふりをしても、どこか困惑したような、照れているような顔で直江を見つめてくる。
今日はクリスマスイブなのだ。
ちょっとくらいの我儘も、神は許してくれるだろう。
聞きなれたエンジン音に、見覚えのあるシルエット。
すぐに直江のウィンダムだと分かった。
今日は会えないと思っていた。
なのに、相手のほうから会いにきてくれるとは。
早く直江に会いたい。
ホーネットを駐輪場に停め、エンジンを切る。
ヘルメットを脱ぐのさえもどかしい。
手は少し悴んで言うことを聞かない。
焦るばかりでちっとも状況が変わらない。
やっとの思いでバイクを片付け、直江のもとに走った。
「来てたのか。」
素知らぬふりで尋ねてみる。
「ええ、さっき着いたところです。」
(ウソツキ。)
ウィンダムの灰皿には、パーラメントの吸殻がいっぱいに詰まっている。
長時間待っていた証拠だ。
こんなことだけで、嬉しいと思うなんてどうかしてると高耶は思った。
「
どっか……。
」
「なんですか?」
「どっか連れてってくれるんだろ。早く出せよ。」
「御意。」
車は高速道路を走っていた。
仄かに香るエゴイスト。
流れる沈黙。
車の走る音だけが静かに響く車内。
二人は無言だった。
嫌な沈黙ではなかった。
高耶は窓の外を走る光の軌跡を目で追っている。
そんな高耶を横目で確認すると、直江は黙々と車を走らせた。
いつしか車はとあるSAの駐車場に止まっていた。
「何か食べましょう。お腹空いてるんじゃないですか?」
「ああ。そうだな。」
「レストランは閉まってるので、そこで軽いものを食べましょうか。」
「俺、ラーメンな。」
「では私も。」
「おまえがラーメン食ってるとこ、初めて見るな。」
「そんなに珍しいですか?」
「おまえって、庶民の食べ物似合わないなぁと思って。」
「私だってラーメンくらい食べますよ。」
「そうだな。」
他愛無い話を交わして、二人は外へ出た。
展望台らしきところがあり、そこから街の夜景を見下ろす。
幾千万の光が街を照らす。
一つ一つの光に、一人一人の幸せが灯っているのかと思うと、幸せな気分になる。
「なぁ。」
「なんです?」
「ありがとな。」
「こちらこそ。それから疲れてるところを連れまわしてしまって……。」
不意に高耶が直江の首に腕を回して、口付けた。
「謝るなよ。俺の方こそ悪かった。バイト優先しちまって。
俺だって、本当はおまえと一緒にいたかったんだ。」
「知ってますよ。あなたが頼まれたら嫌と言えないお人好しだってことくらい。
それから───。」
直江は、高耶の耳元に顔を近づけ囁いた。
「どれだけ俺を───愛しているかってことも。」
「なおえ───。」
「メリークリスマス。愛しています、高耶さん。」
恋人達に降り注ぐのは、甘い時間と甘いキス。
すべての生きとし生けるものへ───メリークリスマス。
あとがき
急いで書き上げました。追試の勉強そっちのけで。
精一杯書きましたが、何分久々のSSなのでいろいろと問題ありかと。
書きたかったのは、「直江とラーメン」……かなぁ。
とりあえず、みなさん良いクリスマスを。
2004.12.25 那岐